作者の辻村深月さんのことをお名前は知っていたけれど、恥ずかしながら作品は今まで一度も読んだことなくて。この作品がはじめて読む作品でした。短編だから読みやすく、辻村さん作品を手軽に知れるかなと思って手に取ってみました。確かに読みやすいは読みやすかったんだけど…読後の気持ちが重くてしんどかったです。
小学校の図工の教師、松尾美穂はその日を、ちょっと高揚した気分で迎えた。教え子で、人気絶頂の男性アイドルグループのメンバーになった高輪佑(たすく、25歳)がテレビ番組収録のため、母校を訪ねてくるのだ。10数年前、美穂が担任をしたのは、佑の3歳下の弟だが、授業をしたのは事実で、佑ファンの娘にも羨ましがられている。美穂の記憶にある佑は地味で、パッとしない子供だったし、プロはだしと称賛される絵の才能も、片鱗は見いだせなかった。撮影を終え、完璧な笑顔で現れた佑は、意外にも松尾に話したいことがあると切り出したが……。
『パッとしない子』あらすじより
こんなに他人の感想が気になる作品もなく、読み終わったあと「パッとしない子 感想」で検索かけて感想を探しました(笑)
10分も経たずに読み終えられる短い話でここまで強いインパクトを残せる作品なので、知名度が高い作家さんはやはりすごい。
すごい作品なんだけど、私はフィクションに救いもしくは笑いを見出したい人間なので、辻村さんの作品はもう手にとれなさそう。。もし今後読むことがあれば、覚悟してからでないと読めなさそうです。
教師とアイドル、どちらの考えも分かるけど…どちらもいびつでどちらにも共感しきれない。
教師と気が合わず、クラスに馴染めなかったり、ぞんざいな扱われ方をされて疎外感を感じた経験は私にもあるので、ああいうタイプの教師に負の感情を抱く気持ちはすごく分かります。鼻をあかしたい気持ちもあるので、アイドルの行動に拍手を送りたい部分もある。
ただ、教師と生徒はどうしても一対多数になりがちだし、人としての相性もあるから、どうしようもない部分もあるんですよね。遠い昔となった今では「まぁそういうこともあるよね」と、良くも悪くも割り切れるようになった自分としては「やりすぎじゃない!?(汗)」という気持ちになってしまいます。自分も知らないうちに人を傷つけるような言動を取っているかもしれないと思うようになったから尚更。そんな風に妥協することを身につけた自分としては、アイドルの言動はひたすら「えっ、こわ、近寄らんとこ」と感じてしまいました。私がもしあのアイドルのスタッフだったら、仕事上のつきあいもあるから慰めの言葉はかけるだろうけど、それだけで深入りはしないと思う。
アイドルも職業柄、一対多数であることも多いだろうから「自分もそうかもしれない…」と思わなかったのだろうか。思っていたら先生にあそこまで強く言えないのではと思ってしまう。
若い時ならアイドルに感情移入してざまぁ展開を楽しめたのかもしれないけれど、もうそれなりの大人(もどき)になってしまったので、ただ苦い思いをしました。どちらの言い分も共感できるところがあるし、「いや、そこまで言わんで(思わんで)も…」という部分があるし。
この作品がなんでこんなに読後感が悪いのかちょっと考えてみた。
人は生きている中でどうしても知らず知らずのうちに人を傷つける。悪気があるなしに問わず。けれど、だからといって、それを知っていたとしても何も言わないで生きていくことなんてできなくて。傷つけたくないという気持ちがあっても、確実な対処方法もなくて。
自分の何気ない発言が人を傷つけているかもしれないと怯えながら生きていることをまざまざと見せつけられて、その先に答えを見いだせないまま終わるからだと思った。
「私は自分でも知らないうちに人を傷つけてしまっているのではないか」という心の奥底に常に潜んでいる不安をさらけ出し、でも、それを怯えたまま生きるしか道はないというのを改めて思い知らされるだけという現実を突きつけられて終わる作品。そんな印象でした。
もしかしたら辻村深月さんの他作品にその答えがあるのかもしれないけど、このショックからしばらくは立ち直れそうにないので、今は見れる気はしません。。
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